ゲーム開発者会議のCEDEC 2024で,ソニー・ミュージックソリューションズの松平恒幸氏によるセッション「『THE TOKYO MATRIX』が目指す新しい遊び」が行われた。
2023年に新宿の東急歌舞伎町タワーにオープンした体験型施設「THE TOKYO MATRIX」が不評を受けるも,その反省を基にしたリニューアルで軌道修正を果たしたことが語られたセッションの模様をレポートしよう。
松田氏はこれまで,「DinoScience 恐竜科学博」「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル-」といったイベントを,ソニー・ミュージックソリューションズの新規事業として手がけ,2024年の4月からTHE TOKYO MATRIXの責任者を務めている。
THE TOKYO MATRIXは2023年4月にオープンした。開発期間はコロナ禍にあたっており,
「日本人の若者たちをターゲットに,新宿というアクセス至便な場所で繰り返し遊べる」というコンセプトで企画されたという。
具体的な施設の内容としては,モンスターとの戦いや宝探し,多数の仕掛けがある部屋の突破といったものを,自分の体を使って体験できる
「ダンジョンアトラクション」となった。
ミッションは7つ用意されており,これまで繰り返し挑戦して全ミッションをクリアしたパーティが200以上もあるという。なかには1000回以上もプレイした人もいるそうだ。
ダンジョンには2~3人のパーティで挑むルールになっている。「1人でもプレイできたほうがいいのでは?」という声もあるそうだが,アンケート調査の結果によると1人で遊びたい人は10%程度で,「みんなで遊んだほうが面白い」という声が多いという。
THE TOKYO MATRIXは,オープン時から「ソードアート・オンライン」(SAO)とコラボしており,世界設定やストーリーはSAOに沿ったものとなっている(今冬終了予定)。SAOのファンと一般客の割合は半々とのこと
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THE TOKYO MATRIXの魅力としては,同じような施設がほかにない
「唯一無二の独自性」,繰り返し挑戦して楽しめる
「リピート性」(全体の20%程度がリピーター)などが挙げられている。
コロナ禍に企画されたこともあって,海外からの観光客をはじめとして,来場者は想定と違っていたそうだが,急いで英語対応や調整を進め,国内外双方の来場者から高い評価を得たという
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だが,松田氏が今振り返って感じるTHE TOKYO MATRIX最大のバリューは,
「ゲームの面白さを生身で楽しめる」ことだという。さまざまなセンサーを組み合わせて,ビデオゲームやスマートフォンゲームの面白さを,VRすら利用しない生身で体験できることが大きなポイントだとした。
これだけ聞くと似たような施設が思い浮かぶ人がいるかもしれないが,THE TOKYO MATRIXの独自性としては,
プレイヤーがそれぞれのIDを管理していることにある。これによってプレイヤーに合わせた難度にしたり,アイテムの使用で有利になったりといったことを実現している。ただ,この部分の開発には苦労したそうだ。
オープンから今までにもさまざまな出来事があり,決して順風満帆ではなかったとのこと。オープン直後は地上波やWebの番組の取材が殺到し,それを見た人たちが
「高難度なダンジョンに挑む」というコンセプトを理解して来場したため,非常に反応も良かったそうだが,夏休みの終わり頃から急激に悪くなり,レビューなどでけちょんけちょんに書かれることが増えたという。その内容を端的に表現すると
「難しすぎるクソゲー」だ。
それを受けて,松田氏たちは年明けからチューニングや改善を実行に移した。具体的には,チュートリアルを手厚くし,「何をやるのか」についての言語的な説明も増やしたという。
さらに4月からは,それまで「1回死んだら終わり」だったルールを「3ライフ制」に変更。それによって急激に満足度が上がり,今に至っている。
ここまでで分かるように,THE TOKYO MATRIXは綿密なアンケート調査を行い,その結果に基づいたチューニングを行っている。特に海外からの来場者の反応は,それによって大きく改善できたそうだ。
そのうえで,松田氏はTHE TOKYO MATRIXの今後を語った。「ダンジョンを攻略する」という設定には非常に手応えを感じており,「駅前の異世界」というコンセプトは継続したいとのことだが,それ以外に改善を必要とする部分があると感じているそうだ。
その1つが,攻略率0.001%と謳う高難度だ。言ってみればゲームオーバーが前提で,海外からの来場者からも「ダークソウルみたい」といった声が聞かれるという。
松田氏は,視聴者参加型の某テレビ番組を引き合いに出すなどして「ゲームとしてはまったくおかしくない」と語りつつも,「一定の経験を得て,ゲームの楽しみを料金のなかで享受しないと嫌だというお客様がものすごく多い」とも明かした。
それを受けて,将来的には「ビギナーもエキスパートもそれぞれ一定の時間/量の体験が楽しめる。ただし,繰り返し楽しい」ものを目指すという。
もう1つはプレイの始め方。THE TOKYO MATRIXでは,来場者がスタッフとほとんどコミュニケーションを取らず,スマートフォンで登録をした内容を起点にしてプレイを開始できるようになっている。
これはコロナ禍に企画されたゆえの仕様だが,手順が複雑になり,デートでやってきた2人やファミリーなど,気軽に楽しみたい人たちにはネガティブに働いたため,「ビギナーが気軽に始められ,リピーターはスムーズにプレイできる」ものにしたいと松田氏は語った。
そしてもう1点,ゲーム性に「苦行感」があるところも改善したいそうだ。現在は「クリアできないと脱落するミッション」といったものがメインだが,それを「協力してモンスターを倒す快感アクション」といったものへ刷新することが企画されている。
例えば,「重いロープを頑張って引っ張る」といったものを「投石機につながったロープをみんなで引っ張り,一斉に離して敵を攻撃」にするといった感じだ。
リピーター向けの要素は,引き続き充実させていく方針のようで,現在も好評のランキングに加えて,プレイヤーのIDを生かした育成要素や,スコア要素を盛り込むことを考えているとのこと。
最後に松田氏は,THE TOKYO MATRIXがある東急歌舞伎町タワーは,大作映画のプレミア公開が行われるなど,高い訴求力を持った場所であることに触れ,コラボなどによって新しいエンタメビジネスを作っていきたいと語ってセッションをまとめた。
以上が歌舞伎町にオープンした高難度アトラクション「THE TOKYO MATRIX」は,どのようにして不評から軌道修正したのか?[CEDEC 2024]の詳細内容です。詳細については、PHP 中国語 Web サイトの他の関連記事を参照してください。