ゲーム開発者会議のCEDEC 2024で,アプリボットのグローバルパートナー事業部 マーケティングディレクターを務める家門真明氏によるセッション「ゲームを作る僕たちが、なぜ『ゲームマーケの嘘』を叫ぶのか」が行われた。
マーケティングや広告をあまり知らない人にとって,なかなか衝撃的な事実が次々と紹介されたセッションの模様をレポートしよう。
昨年のCEDECでも同じテーマのセッションを行っている家門氏は,まず始めに「いい風を起こしてスマホゲーム業界を変えていきたいと思ったが,まだ変わっていない」と語った。そして,今回のセッションについて,マーケティングチームだけでなく,開発チームや企画チームの人にも聞いてほしいと呼びかけていた。
家門真明氏
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「スマホゲームマーケ」で起きている深刻な問題
家門氏はまず,スマホゲーム市場が2021年以降,縮小傾向にあることを示すデータを提示した。
理由としては,スマホの利用人口がここ数年は停滞傾向にあること,そしてスマホゲーム人口がその前から増えていないことが挙げられる。
また,スマホ利用人口におけるスマホゲーム人口の割合を増やせていたのは2014年までで,この10年は「スマホ人口の増加頼み」の状態なのだという。
家門氏は,この状態を「ユーザーへの届け方を間違った」と分析している。
マーケティングといってもいろいろあるが,今回のセッションで説明されるのは「何とユーザーに伝えるか」「どうユーザーを連れてくるか」の部分になる。この点については,マーケティングチームの仕事と考える人が多いかもしれないが,家門氏はむしろここの問題を開発チームや企画チームに知ってほしいという。
そうして紹介されたのが,
「仮に1億円の広告費を使ったとしても,おそらく3000万円程度のパワーしか出ていない」という問題だ。
具体例としては,「1万人獲得したと計測されても,実際には1000人しか増えてない」「広告を止めたのに,なぜか獲得数が減らない」「ゲームユーザーが見ないであろうメディアに広告が出まくっている」といったことが挙げられる。
家門氏はその原因を「無関心」と「マーケティング担当とのコミュニケーションミス」と語った。
「スマホゲームマーケの問題」の原因
なぜそんなことが起こっているのか?
家門氏は少し前までスマホアプリ全体の問題だと考えていたそうだが,実際にはゲームで顕著な現象だと分かってきたと話し,その原因を,
広告の投資判断における成果計測をサードパーティ計測ツールに完全に依存しているからだとした。
ユーザー獲得者数を確認するツールとしては,App StoreやGoogle Playといったストアの管理画面もあるのだが,あまり使われることはないという。
原因としては「大規模開発化」と「個の特定の難度の高さ」が挙げられる。大規模開発化によって社外メンバーも多くなり,その関係で機密情報の取り扱いが難しくなる。またマーケチームと開発の距離が遠くなり,サードパーティ計測ツールが使われることが多くなるという。
さらにボットやリセマラが多く,個人情報の登録も必要ないゲームにおいては,ストア準拠の数値が軽視されがちとのことだ。
家門氏は,サードパーティ計測ツール自体は素晴らしいものだが,「完全に依存」することが危険だと前置きしつつ,
「計測ロジックをハックして,成果を大きく見せる手法が猛威を振るっている」と理由を明かし,具体例を紹介した。
インターネット広告の成果を大別すると,ユーザーが「広告をクリックしてインストール」と「広告を見てインストール」という2種類がある。
そしてその割合は,「クリック経由:見た経由=2:98」なのだという。
家門氏は「そもそもこれって本当に見られているんでしょうか?」と話しつつ,次のデータを提示した。
こちらはストアの数値と計測ツールでの数値の比較だが,全体獲得数も効率のいいメディアの傾向もまったく異なっている。家門氏は「要は,めちゃくちゃ変になっているのがスマホ広告です」と断言した。
さきほどの「本当に見られているのか?」という疑問について,家門氏は「見た」成果を上げている広告がよく表示される場所を紹介した。それが下の画像だ。
画面の一番下でいかにも目に入らなそうな場所だが,ここが「効果がある」とレポーティングされることもあるという。
なぜ目立たない広告が成果を上げているのか。家門氏はそのトリックを明かす前に,計測ツールが用いているロジックを説明した。
インターネット広告では,「ラストタッチ」という概念が重要視される。ユーザーが最後に接触した広告を「成果を上げた広告」とするというルールなのだが,実際にはそうでない場合も多々あるとのこと。
詳細については家門氏も「無駄なので全部は覚えていません。ここで大事なのは,訳が分からないことになっているということです」と語り,場合によっては
ゲームのダウンロードを開始した後に見た広告が「成果を上げた」と見なされることもあると説明した。
また,「友人の勧めでゲームをインストールした」という場合でも,その前の一定期間内でスマホの画面にゲームの広告が表示されていれば「広告の成果」となる。
家門氏は「みなさんは知らない間に広告の成果になっているんです」と語った。
このような状況だと,当然ながら「とにかく広告をばらまいた方がいい」となる。これが「計測ロジックのハック」だ。
ここで話は,先ほどの「効果がある広告」に戻る。前述のように,ユーザーがそのゲームの広告に何らかの形で触れてから,一定期間内にインストールすると「広告の成果」となるのだが,その期間は「広告をクリックする」「広告を長く見る」という触れ方で始まった場合,より長くなる。
「広告を長く見る」というのは,より正確に書けば「広告が長く画面に表示される」ということだ。そうなると,画面の一番下という場所のメリットが見えてくる。
例えばゲームの攻略ページに広告が表示されている場合,下の画像の「A」や「B」にあると,攻略情報を見るためにすぐスクロールされてしまうが,Cはそうならない。つまり,Cのほうが表示時間は長くなる。
家門氏は「今,広告は目立たない方がいいという状態になっている」と,その異常性を指摘した。
家門氏が「みなさんは知らない間に広告の成果になっている」と語ったように,ハックによる広告は,自然流入のプレイヤーを食い物にすることで成果を上げている
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ハックの横行により,課金額が多いプレイヤーほど,バナー広告を重要視しない傾向が現れていると家門氏は嘆いた
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問題を「少しだけ」解決する方法
家門氏は,この状態を解決するための第1歩が「サードパーティ以外の成果確認手法を持つこと」だとして,まずはストアの数値を見てほしいと呼びかけた。
そして2歩めとして,開発や企画チームの人に「マーケに興味を持ってみる」ことを推奨した。マーケティング担当の多くは,この講演の内容をすでに理解しているが,
「いくら正しいことを言っても経営層や開発チーム,プロデューサーは分かってくれない」と,仕方なく“成果が出る”広告を配信しているという。
そしてマーケティング担当に「大きめの広告費を確保したから,効果が計測しやすいインターネット広告中心で進めて」といった指示はNGだと断言。「選択すべき手法は『ユーザーに届くもの』じゃないんですか?」と訴えた。
インターネット広告の成果を4象限で示したもの。そのゲームに関連する「ブランドキーワード」を検索した人向けの広告は成果として怪しい(すでにそのゲームを知っている可能性が高い)ため,「広告を見た」と同様に精査する必要があるとのこと
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最後に家門氏は,「僕たちはどこかで間違ってしまったが,間違ったのならやり直せばいい」「今は30%になっているが,みなさんが作り上げたゲームが100%ユーザーに届く世界を作り上げたい」と語ってセッションを終えた。
以上が今や広告は目立たないほうがいい? 今年も行われた「スマホゲームマーケの『嘘』」を紹介するセッションレポート[CEDEC 2024]の詳細内容です。詳細については、PHP 中国語 Web サイトの他の関連記事を参照してください。